― 基調論文・事例研究からのメモランダム ―
 日本経済新聞「経済教室」欄、2005年4月1日(火)号
佐々木雅幸(大阪市立大学教授);“創造都市”の世紀に−芸術文化が基盤−

(財)地方自治研究機構;「地方政策研究」、第30号(2005年3月)
佐々木高明(元国立民俗博物館長);地域の時代と伝統文化−伝統文化の再生とその意義を問う−
小島美子(国立歴史民俗博物館 名誉教授);伝統文化の上にこそ、新しい地域づくりは成功する
角山 榮(和歌山大学名誉教授・堺市博物館長);まちづくりにおける伝統文化の再評価とまちの再生
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目次
T.“創造都市”の世紀に
 
1.創造的人材
 
2.創造性と革新性
 
3.まとめ
U.伝統文化と芸能
 
1.地域時代と伝統文化
 
2.伝統文化と新地
 
3.まちづくりと伝統文化









T.「“創造都市”の世紀に」− 芸術文化が基盤
    
 日本経済新聞「経済教室」欄、2005年4月1日(火)号
      佐々木雅幸(大阪市立大学教授)

 革新的な知識情報が経済を活性化させる21世紀においては、創造性豊な人材の養成が繁栄の鍵になる。芸術文化の振興によって市民の創造性を高め、それを基盤に先端的な産業を生み出す“創造都市”を目指して、都市間の競争が活発になるだろう。
1.創造的人材が経済を活性化
 21世紀の地球社会は、国民国家から都市へとパラダイム(世界観、社会観の概念)が転換し、“都市の世紀”が始ろうとしている。人間的な規模で、独自の芸術文化を育て、革新的な経済基盤を持つ“創造都市”に関心が集まっている。
 理由は、製造業を中心とした20世紀型経済から、知識情報中心の21世紀型経済社会への移行が明瞭になり、都市や地域の経済エンジンが大企業や大規模工場から、創造性溢れる企業や個人にシフトして、活力溢れる中小企業がネットワーク型に集積し、ダイナミックなパフォーマンスを示している。
2.創造性と革新性が相乗効果を発揮 − 文化資本を生かした都市の文化的生産
 芸術文化が持つ創造的なパワーが、社会の潜在力を引き出すことに注目して「創造性」を「知識」(インテリジェンス)と「革新」(イノベーション)の中間に位置づけ、芸術文化と産業経済をつなぐ最重要な媒介項として扱われている。
 地域再生の鍵は工場の誘致ではなく、如何にして創造的な人材を誘引できるかにかかっている。
 また、創造的なコミュニティーを実現するには、社会的・文化的・地理的環境こそ重要である。
 <事例>
  金沢市:
   1980年代後半:グローバル化の中で繊維産業が衰退
   1996年     :「金沢市民芸術村」オープン(紡績工場跡、倉庫群活用)
              
24時間対応市民参加型文化施設(活性化、企画立案、利用者調整)
   2004年10月  :都心部に「金沢21世紀美術館」
            
 芸術は、創造性溢れる将来の人材を養成する未来への投資地元の伝統工芸・
               芸能と現代アートの融合を目指す

  横浜市:
   「クリエイティブシティ・ヨコハマ」構想
     
まちづくりに関わる行政の部署を横断的に再編(文化芸術都市創造事業本部)
     NPOなどの政策過程への参画

        ・大規模ウォーターフロント開発の停滞からの再構築
          バブル崩壊と東京都心の大型オフィスビル建設ラッシュで二重の打撃を受けた
        ・「創造界隈」の形成と「映像文化都市」を目指した取り組み
          NPOによる「BankART1929」、東京芸術大学大学院映像研究科誘致

3.まとめ
 1)「芸術文化の創造性」を、産業、雇用、教育、環境など多面的な分野に影響を与え
   るように位置づけ、文化政策を産業政策、都市計画、環境政策などと融合する。
 2)芸術文化を知識社会のソフトな社会インフラととらえ、その制度設計に関心を集中
   する。
 3)都市の中に、「産業と文化の創造の場」を多様に作り出すこと、その中心を担う創
   造的プロデューサーの育成こそ、最重要の課題である。

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U.「伝統文化・芸能を活かしたまちづくり」
    
(財)地方自治研究機構;「地域政策研究」、第30号、(2005年3月)

1.地域の時代と伝統文化 − 伝統文化の再生とその意義を問う
    佐々木高明 元国立民俗博物館長
1)地域の時代の到来 − 「ポスト・モダン(価値観の多様化)」の動き
(1)「近代」化という「モダン(中央集権、統一化)」のプロセス
  明治維新(明治元年:1868年)における近代国家体制確立
  ・地方分権(幕藩体制:半独立国家)から中央集権(独立国家)の強化へ政策転換
    
廃藩置県、四民平等(士農工商制度廃止)、富国強兵(徴兵制度)、殖産興業、地租改正(税制導
    
入)、戸籍制定
  ・文明開化(均質な価値体系における近代的な国民文化の創出)
    
教育制度の改革(義務教育制度の創設・展開、国語(標準語)制定、国定教科書)
     生活環境改善(太陽暦、時計、道路・交通手段、ガス灯・ランプ、洋服、食生活等)

(2)「ポスト・モダン(価値観の多様化)」の胎動
  ・価値観の多様化
    
教育水準の向上、情報の多様化・伝達手段発達、生活水準の向上
  ・「多極的分散社会」構想の出現
    
「地域」が生み出し、育んできた「伝統文化」の再認識と再評価
       「地域」:   いきいきとした生活の営みに充填された実体
       「伝統文化」:地域ごとの特有の文化伝承の中で育まれてきた文化
                価値体系のように心の側面から物質文明に至る様々な要素で構成されており、そ
                の一つひとつの要素は、それぞれ優れた情報を有している

2)伝統文化の活性化とその意義 − 情報の発信と地域文化の再生
(1)伝統文化の活性化
 @伝統文化に含まれる民衆の様々な心の動きや知恵、つまり、そこに貯えられている
   様々な情報を旨く再発掘(再認識)して、それぞれをいきいきとした情報として再発
   信する。
 A伝統文化の個々の要素の情報発信を積極的に行うことによって、その要素が多く
   の人々に理解され、その特色が良く認識されて地域文化の再生に役立ち、演出が
   容易になり機会が多く出現する。
(2)伝統文化の創造性と多様性
 @歴史遺産は、全て固定化し、一定の型にはめられて止まっているものではない。
 A伝承、継承されていく過程で、常に、自己革新を繰り返し、革新のエネルギーを活
   性化のエネルギーに変換して創造的に発展させる。
 B伝統文化の情報発信に当たっては、歴史的に伝承された伝統性とともに、伝統を
   革新していく創造性と多様性が常に失われてはならない。

2.伝統文化の上にこそ、新しい地域づくりは成功する
    
小島美子 国立歴史民俗博物館 名誉教授
  伝統文化は、後生大事に保存するのではなく、現代に相応しい形に展開してゆこうという姿勢が大切。長い間、その土地の人々の経験の積み重ねによって築かれたもので、それぞれの時代に展開してきたからこそ、今の豊かさがある。
  むしろ、伝統文化の合理性を突き止め、優れた現代文化として捉え直すことが必要である。日本人の伝統的な感覚、考え方を基礎として、伝統文化を発展させることは、きわめて現代的である。

3.まちづくりにおける伝統文化の再評価とまちの再生

  ― 活性化する茶の文化発祥の地・堺 ―
    角山 榮 和歌山大学名誉教授・堺市博物館長
1)まちづくりの目標
 @高齢化社会の中での孤独な高齢者、少子化の中での孤独な家族を含めた住みよ
   いまちづくり。
   
家庭における茶の間の喪失、個室化、携帯電話、メール交信
 A近代化、工業化進行の過程で希薄化した人と人との関係を暮らしの中に再生す
   る。
   
効率化、機能化、利便性向上優先、「ふれあい」の機会の喪失
 B失われた美しい自然環境、人間と自然との断絶を取り戻す
   
自然環境は、歴史的に構成されたものであり、その都市の持つ個性的な価値

 地方の時代の「まちづくり」は、それぞれ地域の特色を生かして、人びとの住みよい、住み心地の良い“まち”をつくることにある。
 その地に伝わる自然環境、人間と自然との断絶を取り戻し、また、希薄化した人と人との関係を暮らしの中にどのように再生するかが最大の目標となる。
 とりわけ、人間関係の問題は、ソフトの問題であり、文化の問題である。
2)茶の文化発祥の地・「堺」のまちづくり
 堺市は、人口83万5千人、大阪府下、大阪市につぐ大都市で、平成18年4月には、日本国内15番目の「政令指定都市」を目指している。
 堺は、旧石器、縄文の時代より集落を形成して人が住んでいたところと考証され、仁徳陵をはじめ、巨大古墳群が多く建造され、古墳文化の栄えたところである。
 中世(16世紀)の頃にあっては、堺の"まち"衆文化として千利休により茶道が大成され、今日なお、その文化が日本人の暮らしの中に「茶の湯」文化として伝承されている。
 「茶の湯」の精神には、「一期一会(いちごういちえ)」、「和敬清寂」の哲学があり、「もてなしの文化」である。
 お茶を点ててお客に接する行為、その中に相手に対する思いやり、人間関係として相手の人格を尊重し、礼を尽くして接する態度、こうした「ふれあい」と「もてなし」の行為を通じて、互いの信頼関係が生れる。
 「茶」は、「CHA」。
 C:Communication「ふれあい」、H:Hospitality「もてなし」、A:Associate「人間関係の形成」に通じる。
 「お茶」が、人間関係を大切にして生きる生き方、暮らし方の媒介として重要な役割を果たす。
 千利休の「茶の湯」の文化のエッセンスである「もてなし」と「ふれあい」の心は、それが煎茶、番茶、さらにはウーロン茶、紅茶に変わっても変わらない。
 「堺」のまちづくりは、堺が創造した「茶の文化」の原点に戻ること、つまり、人間関係の再構築による新しいコミュニティー運動から始めるべきである。
 そうした動きは、すでに、堺では始っている。そのいくつかを紹介したい。
3)「堺」における人間関係づくりの活動事例
(1)学校教育で教わる「茶の文化」−「まちづくり」は「人づくり」
   堺市では、数年前から、小、中学校の教育の場で、三千家の関係者から茶のもて
  なしの方法と心、礼儀作法を学んでいる。
(2)大小路界隈「夢」倶楽部の賑わいづくり
  
 URL:http://www.eonet.ne.jp/~yume-club/
   かつての堺の“まち”衆が、茶の湯、連歌、能楽などの文化に花咲かせたように、
  文化の息づく環境を整え、伝統と創造のまちづくりに勤しんでいる。
(3)市民活動団体“堺なんや衆”の活動
   
URL:http://www.sakai-nan-ya.net/ 
   堺の“まち”文化の再発見、再生、創造、魅力情報の発信を目的として市民活動
  に取組んでいる。
   平成17年度活動テーマ:「CHAの文化セミナー」開催(計5回)
(4)女性たちの賑わいグループ「スコーレ」
   「地域の中で老後を幸せに過ごすことが出来る、そんな仲間づくりをしよう!」を
  目標に10年ほど前に設立。お互いに教えたり、学んだり、それぞれの経験とキャリ
  アを生かした女性たち200人が集うの仲間づくりの組織で、30以上の講座を運営す
  るサロンの「場」でもある。

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